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今年も半分終わりなので、読んだものを記録してみる。もうちょっと技術書を読んだほうがいいような気もするし、読書は趣味なのだから、これはこれで良いじゃない、という気もする。あと Kindle で買っていないもの (オンラインのページとか O’Reilly とか) は後から見返せなくて、それからくるバイアスもちょっとはある。ちょっとだけど。

育児書ももう少し読むべきなんだけど、日本の育児書で、かつ電子化されているものは、なぜかタイトルが辛いものが多い。

例えば、私が結構気に入っている Zero to Five - 70 Essential Parenting Tips Based on Science が翻訳されると『いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55―――IQが上がり、心と体が強くなるすごい方法』になってしまう。確かに原題も「科学」はあるけれど、しかし「断言できる」とかなんとかだいぶ暑苦しい。情報商材っぽくもある。

ジョー・イデ『IQ』『IQ2』

日系アメリカ人作家ジョー・イデの黒人ミステリシリーズ。面白かった。アメリカ治安悪い。洋書ファンクラブの渡辺由佳里さんの評では

IQという複雑なヒーローと、リアリスティックな登場人物たち、そして、文芸小説のような哀愁がほどよく混じっているからだろう。アクションも多く、飽きないところもいい。

なんて書かれているけれど、うーん、文芸かなあ。個人的には京極堂とかそういう、キャラクターがたっていて、事件があって、悪い奴がいて、アクションがあって、という濃いめの味付けを楽しむ話だと思う。

Joe Ide “Wrecked”

面白かったので、未訳の3巻は英語で読んでみた。前作を日本語で読んでいて主要キャラがわかるからか、英語でもまあまあ読めた。しかし、巻が進むにつれてアイゼイアではなくドッドソンの方に肩入れしてしまう。

柞刈湯葉『人間たちの話』

早川書房の1500作品が50%割引の大型電子書籍セールがきたのでオススメを紹介するで紹介されていたので読んだ。

こういう設定なので人々はこういう生活を送っていて、みたいな描写は面白いんだけど、最後に盛り上がりそうなところで盛り上げずにパッと切るようなところがあって、意図しているのかもしれないけどちょっと物足りない。表題作はちゃんと盛り上がってよかった。

著者はホームページで Web アプリも公開していて同世代感がある。また、横浜駅 SF はマンガが全文読める。

絲山秋子『絲的炊事記 豚キムチにジンクスはあるのか』

面白いけど、絲山秋子はエッセイより小説が好きだな。あとこういう独身ダメ無頼みたいなのを、子持ちになってから楽しめなくなりつつあるような気がする。ダメでいられることに贅沢を感じてしまう。

子持ちダメ無頼エッセイは成立するのかなあ。独身がご飯に醤油をかけて食べるのはその人の勝手だけど、子供にそれを食べさせるようになってしまうと、ちょっと笑えなくなってしまうので、成立させるのは難しそう。

山形浩生『断言 読むべき本・ダメな本 新教養主義書評集成 経済社会編』

山形浩生の書評集。ブログにあるものから、なつかしの『新教養主義宣言』に収録されていたもの、さらに昔のものまで幅広い。山形浩生はケインズとか毛沢東とかに関する本を訳すときに、既存の本を一通り読んで評するというのをブログでよくやっているのだけど、例えば間宮陽介訳の酷さとかは、ブログで読む分には面白いけれど本で読まなくてもいいかなあとは思う。

関満博『現場主義の知的生産法』

前述の山形浩生の書評集で薦められていたので読んだ。面白い。面白いけれど「あ、これでいいのか」というよりは「ここまでやるのかあ。そうかー。うーん。」という気持ち。あと、私はコンサルではなくて、どちらかというと著者に取材される工場側の人間なんじゃないかと思う。

花村太郎『知的トレーニングの技術』

これも目指しているところが高さは『現場主義の知的生産法』に通じるものがある。文学・哲学・科学を通して語るのはかっこいいけれど、一方でちょっとポストモダンっぽくもあって、後半はちょっと読み飛ばした。

借金玉『発達障害サバイバルガイド』

私は発達障害ではないんだけど、生活の運用コストを下げる方法として面白かった。ライフスタイルのミニマリストに通じるところがありつつも「毎日同じ服でいいのでは?」とまでは尖りすぎないので、もうちょっと汎用性がある。

ヤマシタトモコ『違国日記 (7)』

2月に読んだマンガの感想を6月に書くのは無理があるなあ。良いです。ちょっと語りすぎな気もするけど、でも2021年にヤマシタトモコを読んで「セリフ長くない?」っていうのも、焼肉屋で「肉多くない?」っていうような、お前なにしにきたんだよ、って感じがしませんか。

大槻兼資『問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造』

Qiita に AtCoder の話をよく書いていた けんちょん/大槻さんの本。GitHub にある補足資料が、

章末問題の略解は、現在は簡潔な記述にとどめていますが、今後コンテンツを充実させていく予定です。また、各 C++ ソースコードと同等の処理を Python でも提供していく予定です。

のまま止まってしまっていて、かつ章末問題の回答も載っていないで、ちょっと独習には辛かった。通して読んでいない気がするので Q3 にがんばります。

特にほめられた話でもないのだけど、最近よく YouTube をみているのと、

人々のおすすめチャンネルやビデオの話を読むのが好きなので、まずは自分のおすすめからまとめてみます。

AWS App Runner がリリースされた。めでたい。サービスそのものについては同僚の Onur さんArchana さんトリさんが既に Twitter に色々と書いていて、ここで付け足すことはあまりない。

App Runner は正式名称が決まる前から実装を手伝った、初めての AWS サービスなので、ちょっと感慨ぶかい。Fargate は Platform Version 1.4 から色々と手伝っているけど、自分が入ったときに Fargate そのものはサービスとして存在していたし、Bottlerocket は正式名称が決まる前から知っていたけれど、異動に伴うオンボーディングのときに Bottlerocket チームのマネージャーから話を聞いていくつか文章を読んだだけで、実装には全く関わっていない。

仕事で作ったソフトウェアが世界中で使われるのは良い。日本でもコンシューマーゲームとか自動車とか輸出産業周辺に携わっていたらそれが味わえたのかもしれないけれど、残念ながらソーシャルネットワークというか、もっというと渋谷のウェブ系は、輸出産業にはなれなかったんだよなあ。

デジタル庁の note ができた。

デジタル庁は「行政の透明化」を掲げ、noteでの発信を始めます。

ここまで読んでくださったなんて、さぞかし心優しい方々なのだろうと踏みまして、ついでといってはなんですがお願いがございます。

皆さまからも「こんなこと発信してほしい」「こういう記事期待」といった意見を募集させてください!

ということなので、個人的な要望を書きます。

発信してほしいこと: デジタル庁の今年度の優先順位を公開してほしい

デジタル庁には「デジタル社会形成における10原則」というのがあって、本家の www.digital.go.jp にも掲げられている。

ただ、この原則は、正直あまりよく書けていない。まず10原則にそれぞれ2から4程度の小項目があって多すぎるし、粒度もバラバラ。「国民への説明責任を果たす」「多様な価値観やライフスタイルへの対応」あたりは、デジタル庁というよりはもっと上のレベルで取り組む課題だし、「国民に『お得』なデジタル化でデジタル利用率向上」と「国民が圧倒的便利さを実感するデジタル化の実現」は、重複が大きい。「自由や信頼を大切にするデータ・デジタル政策で世界をリード」は、採用のためには必要なのかもしれないけれど、国民の優先順位とはズレがあるし、残念だけどあまり現実味がない。

デジタル庁に類する行政機関は世界にも色々あって、彼らにも原則めいたものを掲げている。例えば、アメリカの United States Digital Service (USDS) には4つの目標と6つの価値、イギリスの Government Digital Service (GDS) の4つの責任と6つの優先順位、オーストラリアの Digital Transformation Agency (DTA) には4つの役割・フォーカスと、4つの優先順位がある。USDS は目標と価値を足したら10になるものの、実際に内容まで比較してみると、やっぱり日本のデジタル庁の10原則はちょっと多すぎるんじゃないかと思う。

すでに決まった10原則を減らすのは難しいだろうけど、今年度とか時間的な期間を区切った範囲であれば「これとこれをやりましょう。これはやりません。」という優先順位づけは、どのみちしないといけない。その結果を公開するのは、デジタル庁の全体像が国民に伝わる助けになると思う。

note を使うことについて

私はサービス側のタイムラインは無視して全てを RSS リーダーで読みたい派なので、note はあまり好きではない。一方で、RSS リーダーを使っている人なんて少数派だし、コロナ専門家有志の会東京感染症対策センターも note を使っているのをみると、私にはわからない魅力が note にはあるんだろうと思う。

ただ、note は IP アドレス漏洩問題 あたりを機に、ウェブ魚拓 Internet Archive によるサイトのクロールを robots.txt で一律禁止している。

これは、行政機関のウェブサイトとしては好ましくないし、デジタル社会形成における10原則で掲げられている「オープン・透明」とも相反している。

note.digital.go.jp にある robots.txt をみると、最後に

Sitemap: https://note.digital.go.jp/sitemap.xml.gz

という一行があって、ある程度は動的に出しわけされているのがわかる。であれば note は、最低限でもデジタル庁だけ、可能であれば自治体や公的な機関の全般について、クローラの恣意的な排除はやめるべきだと思う。

2021-05-13 追記

fuba さんも書かれているけど

この発言はデマなので削除しました、 Internet Archive にはちゃんと収集されてた様子です

Internet Archive は robots.txt を無視する (2017) ので、デジタル庁の note が Internet Archive に無いというのは誤解でした。実際に冒頭にリンクしたページも既に保存されている

日本のソフトウェア開発はなぜ世界から落伍したのか。中国人エンジニアの見方 経由で、IMD の World Digital Competitiveness Rankingというのを知った。

Now in its fourth year, the IMD World Digital Competitiveness Ranking measures the capacity and readiness of 63 economies to adopt and explore digital technologies as a key driver for economic transformation in business, government and wider society.

無料で PDF がダウンロードできるので読んでみた。

トップ5位とランキングの手法

2020年のトップ5位は、

  1. アメリカ
  2. シンガポール
  3. デンマーク
  4. スウェーデン
  5. 香港

日本の近所の国々をみると、韓国は8位、中国は台湾と一緒にされて11位。このランキングは、各種統計データと、サーベイから算出されていて、国ごとの細かい評価項目も見れる。

例えば、日本の場合は Overall top strengths に

  • Pupil-teacher ratio
  • Mobile Broadband subscribers
  • Wireless broadband
  • World robots distribution
  • Software piracy

Overall top weaknesses に

  • International experience
  • Digital/Technological skills
  • Opportunities and threats
  • Agility of companies
  • Use of big data and analytics

が挙げられている。

“Use of big data and analytics” とか統計データあるのかい、と思って見てみたらこれはサーベイが元になっている。さらにいうと、強みは全て統計がもとに、弱みは全てサーベイがもとになっていて、これは調査方法からくるバイアスもあるのでは、と不安に思う。

ところで IMD ってなんなの?

IMD の正式名称は “International Institute for Management Development” で、スイスのローザンヌにあるビジネススクールらしい。

Based in Lausanne (Switzerland) and Singapore, IMD has been ranked in the Top 3 of the FT’s annual Executive Education Global Ranking for the last nine consecutive years and in the top five for 17 consecutive years. Our MBA and EMBA programs have repeatedly been singled out among the best in Europe and the world.

スイスとシンガポールに本拠地のあるビジネススクールが、シンガポールが2位、スイスが6位に位置するランキングを発表するのは、我田引水というか体言一致というかなんというか。

ちなみに、IMD が発表する World Talent Ranking ではスイスが1位、シンガポールは10位。World Competitiveness Ranking では、シンガポールが1位、スイスが3位です。