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『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』を読んだ。

「8割おじさん」として知られる西浦博の語り起こし。編集はノンフィクション作家・小説家で、科学関係の著作も多い川端裕人。

西浦博は、本人の性格なのか、政府や行政との調整や、メディアへの出演などからは身を引いて、また本業の研究者に戻ったという立場からなのか、私だったら躊躇するようなことをさらっと話してしまう傾向があって、そこは野次馬的に面白い。

例えば、元上司である渋谷健司について、

僕にとっては、過去の上司が必ずしも感染メカニズムに大して深い洞察をせずにクラスター対策を頭ごなしに批判して日本を掻き乱す中で、実質はその正反対である押谷先生の考え方に立ち合い、そして本質的に重要な接触制限の問題をどうやって効率的に伝えていくのかという一番困難な問題に悩む、という葛藤の多い時期でした。

とか、メディアとの勉強会について、

本音をいうと、テレビの記者からもらう質問は新聞記者とだいぶ異なっていて、緊急事態宣言の話をしている中で、3割4割はダイヤモンド・プリンセスのはなしとか、そこに乗った岩田健太郎先生との確執についてとか、あるいは元感染症研究所の岡田晴恵先生がワイドショーで行っていた PCR の問題についてとか、本筋で議論すべき緊急の未来志向のテーマから外れがちではありました。

とか、あまりにあけすけで笑ってしまう。

しかし、専門家が、データ分析などの本業をしながら、政治家から国民全体までを含む非専門家とコミュニケーションして、さらにその内容が人が死ぬ類のリスクについてというのは、かなりの難局で、それを乗り切った西浦ら専門家会議の人々はすごいなあと思う。

デジタル庁やデジタルトランスフォーメーションの流行でもって、我々ソフトウェア開発者もそういう局面に立たされる場所があるかもしれない。ただ一方で、私の日々接しているリスクは「これ、3月には間に合わないですね」とかそういう平和なもので、人の生死には関わりない。ソフトウェア開発で人が死なない、というのは単純化しすぎだけど1、セキュリティ系の問題とかデータ流出とかにしても、攻撃側は人間で、ウィルスみたいな自然現象を相手にするよりはなんとかなるような気がしてしまう。


  1. ちょうど Hillel Wayne が Are We Really Engineers? のなかでその話を書いている。 ↩︎