舎路(シアトル)日記

シアトルで働く日本人プログラマの日記です

『大事なことに集中する』(原題 “Deek Work”) の著者である Cal Newport は、いままでに何作か自己啓発本を書いている。

  1. “How to Win at College”
  2. “How to Become a Straight-A Student”
  3. “How to Be a High-School Suparstar”
  4. “So Good They Can’t Ignore You”
  5. “Deep Work: Rules for Focused Success in a Distracted World”

このうちで、4作めにあたる “So Good They Can’t Ignore You” だけは『今いる場所で突き抜けろ!』として邦訳が出ていたので、読んでみた。

『好きなことを仕事にしよう』は間違ったアドバイスである

本書では「『好きなことを仕事にしよう』は間違ったアドバイスである」というのを出発点に、じゃあどうやって仕事を探すべきか、ということが自身の経験とともに書かれている。

著者は、魅力的な仕事は

  • 創造性
  • 影響力
  • 自由度

の三つが揃っているものだと定義し、これらが得られる職は市場では稀少なものなので、それを要求するなら、等価に稀少な何かを差し出さなくてはならない、と主張する。というわけで、あなたには秀でたスキルがまず必要であって、これがタイトルの『今いる場所で突き抜けろ!』につながってくる。

著者が好ましいと思っている、アウトプット中心のアプローチを「職人マインド」と呼んでみたり、自分が費やした時間を記録することを勧めてみたり、そういう点は『大事なことに集中する』と重複している。

意識高い批判

『大事なことに集中する』にあったソーシャルメディア批判は本書にはなく、その一方で、意識高い系というか「ブログで稼ぐ」みたいな人々が「等価で差し出すものもないうちに、稀少なものを求めてしまっている」と強く批判されている。

ただ、熱心に “Study Hacks” なんてブログを書き、”How to Win at College” という本まで出し

この資産を活用して、学生へのアドバイス本を書いた。このような経験をしたことで、私は充実した学生生活を送ることができた。私は、ダートマス大学初の、出版社から定期的に電話を受ける学生だった。

と誇ってみせる著者は、私から見ても、アメリカ平均から比べても、だいぶ意識が高い。

意識高い系への批判には「好きなことを仕事にしよう」批判だけではなく、そういう場所の近くにいた著者ならではの、なんというか克明さがあった。あんまり趣味はよくないと思うけど。

ミッション

『大事なことに集中する』は、研究者としてインパクトのある論文を書くことにとにかく集中する、という著者の明確な優先順位が印象的で、自分にはそこまで集中できるものがあるだろうか、と疑問に思った。

本書では、キャリア資本市場 (平たくいうと採用市場) には

  • KPI が一つはっきりした、勝者ひとり勝ち市場
  • 複数の資本を組み合わせられる、オークション市場

の二つがある、とされている。この例えにのると、ソフトウェアエンジニアは後者の仕事で、iOS と Android に詳しく、スクラムマスターもやりますよ、という人を求める会社もあれば、C++ でリバースプロキシが書ける人を求める会社もある。これらを一次元に並べて「優劣なソフトウェアエンジニア」を定義するのは難しいし、あまり意味がない。

キャリアの軸となるミッションを持つことにも触れらている。ここでの著者はちょっと歯切れが悪く、

なぜ自分のキャリアには独自のミッションがないのだろう?

からはじまり、後半になっても「過渡期リサーチ・ミッション」と前置きして

現在の私のミッションは、「分散アルゴリズム理論を、新しい面白い分野に適用して、新しい面白い結果を出す」ことだ。

と、いまひとつ煮え切らない。

この辺りは、MIT でのポスドク期間を終えて、ジョージタウン大学で准教授の職を得て働き出すまでに書かれたという、著者自身の、まだ何者にもなりきれていない感じの逡巡が出ている。これは『大事なことに集中する』は、良くも悪くも欠けていた部分で、鬱陶しいと思う人もいるかもしれないけれど、個人的には親近感がもてて良かった。