舎路(シアトル)日記

シアトルで働く日本人プログラマの日記です。

Misreading Chat に触発されて、Kate Starbird の Examining the Alternative Media Ecosystem through the Production of Alternative Narratives of Mass Shooting Events on Twitter を読んだ。日本語に訳すと「Twitter における銃乱射事件をめぐるオルタナティブな言説の発生を通して、オルタナティブメディアの生態系を検証する」といったところだろうか。

著者の Kate Starbird は高校時代から女子バスケットボールで活躍し、スタンフォード大学を卒業したあとには、7年間近くプロのバスケットボールとして活躍したという変わった経歴の人で、今はワシントン大学の助教授 (Assistant Professor) として、The Emerging Capacities of Mass Participation (emCOMP) Laboratory という

The Emerging Capacities of Mass Participation (emCOMP) Laboratory, directed by Assistant Professor Kate Starbird, investigates the dynamics of massive participation and interaction enabled by new and social media.

コンピュータサイエンスと社会学にまたがるような研究室を率いている。こういう学際的な研究室は何学部なんだろうと思ったら、Human Centered Design & Engineering という、これまた学部自体も学際的なところだった。

さて、今回とりあげる論文では、Twitter のストリーミング API を使って shooter, shooting, gunman といった単語をふくむものを10ヶ月のあいだ収集し、そこから false flag, crisis actor といった陰謀論に関係のある単語をふくんだものだけを抽出し、そうして集めた99,474件のツイートを色々と分析している。

なお “false flag” というのは偽旗作戦のことで、今回の文脈では要するに「やらせ」のことだ。”crisis actor” というのはそれに協力して演技する人々のことで、カタカナの「クライシスアクター」で検索すると、日本でも陰謀論系のサイトばかり引っかかって厳しい気持ちになる。日本のインターネット用語風にいうと「劇団員」みたいなものだと思ってもらえれば、当たらずしも遠からずだと思います。

Methods of Analysis

私はこういう分野の初心者なので、この章が一番興味深かった。99,474件のツイートからどうやって意味のある何かを探し出すか。

まず、著者は、ツイートにふくまれるリンクのドメインをノードとした、重みつきの無向グラフを作る。ノード間のエッジは「その二つのドメインについてツイートしているユーザーがいる」という事実を、重みはそのユーザーの数を表している。

次に、こうしてできたグラフから、YouTube のような様々なコンテンツをホストしがちなサイト、短縮 URL などを取り除き、さらにエッジの数が少ないノードや、重みの低いエッジを取りのぞく。

さらに、こうしてできたグラフの中心にある 117 ノードについて、著者は、それに言及しているツイートとリンク先の内容、そのドメインの現在のトップページ、About ページの内容などを定性的に分析する。

最後に、それらのノードを

  • 主流派メディアか、オルタナティブメディアか、ブログか、政府系か、そのほかか
  • そのドメインはオルタナティブな言説をサポートしているか、いないか、オルタナティブな言説の根拠として使われているか、無関係か
  • ドメインは伝統的なニュースか、クリック稼ぎか、陰謀論/疑似科学の布教か、強い政治的な目的があるか
  • 政治的傾向は右よりか左よりか、それ以外か

などといった軸で分類している。

Findings

ここでは、分析の結果を細かく説明してく。結構分量があるのと、そのあとの Discussion/Conclusion とかぶるところもあるので、いくつか目についたものだけを引用しておく。

一つはボットネットの存在だ。著者はデータセットの中で一番によくツイートされていた The Real Strategy について、互いにフォローしあう200ユーザーによる機械的かつ組織的なツイートを

The Real Strategy, an alternative news site with a conspiracy theory orientation, is the most tweeted domain in our dataset (by far). The temporal signature of tweets citing this domain reveals a consistent pattern of coordinated bursts of activity at regular intervals generated by 200 accounts that appear to be connected to each other (via following relationships) and coordinated through an external tool.

二番によくツイートされていた Infowars について、同じような名前で同じような作成時期の1609ユーザーによるツイートを発見し、

The InfoWars domain, an alternative news website that focuses on Alt-Right and conspiracy theory themes, was the second-most tweeted domain, but as (Figure 1) shows it was only tenuously connected to one other node. Examining tweets that referenced this domain, we noted a large number (1609) of similarly-named and -aged accounts that sent a single tweet in our collection. This activity was very likely automated, though not as sophisticated as that from The Real Strategy.

どちらも、自動化されたものだろうと推測する。

次にオルタナティブメディア間のグラフ上のつながりだ。

The graph shows a tightly connected cluster of alternative media domains (upper left)—suggesting that many users are citing multiple alternative news sites as they construct alternative narratives.

この場合、サイト間のハイパーリンクではなくて、同じユーザーが複数のオルタナティブメディアについてツイートしていることを表しているわけで、つまり、オルタナティブメディアを読んでいる人は、また他のオルタナティブメディアも読んでいることを意味している。

Underlying this convergence of themes, many of these sites aggregate news so the same articles (and authors) appear across multiple domains. For example, in our data, there are 147 tweets linking to the article about the Orlando shooting on the VeteransToday.com domain. 100 other tweets link to the same article—same text, same author— hosted on different domains.

こうした複数のオルタナティブメディアの中では同じようなネタだけに止まらず、全く同じコンテンツがそのまま流通することもあるらしい。

最後にオルタナティブメディアの政治的傾向について

The political leanings of the alternative media domains did not align well to U.S.-based notions of left (liberal) versus right (conservative). Instead, the most salient dimension was around the issue of globalism.

著者は主流派のメディアの左右の分類とはきれいに呼応しないこと、一方で反グローバリズム傾向があることを指摘する。

Discussion/Conclusion

最後は議論と結論。

著者は、オルタナティブメディアの強い政治的傾向を指摘し

We also detected strong political agendas underlying many of these stories and the domains that hosted them, coding more than half of the alternative media sites as primarily motivated by a political agenda— with the conspiracy theories serving a secondary purpose of attracting an audience and reflecting or forwarding that agenda.

これらのサイトの目的の一つがそうした政治的傾向を広めること、陰謀論は読者を惹きつける、ないし政治的傾向を反映した道具として使われていることを指摘する。

Additionally, content supporting Russian government interests was present across a majority of these domains. We hope to provide a more detailed analysis of the role of Russian government propaganda within this network in future work.

さらに、ロシア政府の利害との一致も指摘している。

また、そうした情報の摂取について、著者は Conspiracy Theories: Causes and Cures の「陰謀論を信じてしまうのは、精神的な疾患ではなくて、限られた情報源による認知の麻痺によるものなのではないか」というのをひきながら

Sunstein & Vermeule (2009) write that contrary to popular framings, belief in conspiracy theories does not imply mental illness, but is instead indicative of a “crippled epistemology” due in part to a limited number of information sources. Our research suggests this crippled epistemology may be exacerbated by the false perception of having a seemingly diverse information diet that is instead drawn from a limited number of sources.

オルタナティヴメディア間での内容の共通性が、読者にとって「様々な情報源を当たった」という間違った認識を与えてしまう可能性について指摘している。

日本の場合

最後に「これを日本でやるならどうなるか」というのをちょっと考えてみたい。

まずは最初のツイートの収集だ。政治的傾向の左右を問わず、主流からオルタナティブなメディアまでを集められて、かつ10ヶ月でそれなりのデータ量になる検索語というのは、なかなか選ぶのが難しい。最近なら「森友学園」は悪くないかもしれない。

一方で、英語に比べると日本語のツイートは十分に少ないので、あまりフィルタリングしなくとも、”lang:ja” だけでなんとかなったりするのかもしれない。

ドメインに関していうと、日本では BreitbartInfowars に匹敵するような巨大サイトはまだ無い、と思う。一方で、2チャンネルや5チャンネルのまとめサイトの存在は日本特有のものだろう。こうした違いはツイートから同じようなグラフを作るだけで明らかになるんだろうか。

また、アメリカに対するロシアのように、日本のツイートの中にも特定の国の関与を強く疑わせるものはあるんだろうか。データなしに「中韓の工作員が」なんていうと陰謀論にしかならないけれど、データからそれが浮かび上がってきたら、面白い反面だいぶ怖いだろうなと思う。