舎路(シアトル)日記

シアトルで働く日本人プログラマの日記です

最近、プログラマの人が文章を「ポエム」と称することが増えている。Qiita で created をつかって検索してみると

2014年後半に大きく増えて、その後もそれなりの成長率を示している。morrita さんから指摘があった、Qiita 自体の成長率については、末尾に Perl, Ruby, Python のヒット数をつけたので、それを参照してほしい。

「ポエム (詩) は特定の芸術形式の名前なので、卑下やエクスキューズとして『ポエム』という語を使うのはいかがなものだろうか」派閥としては、自分で使うことはないとは思う。一方で、なぜここまで人が「ポエム」という語を使うようになったかは関心がある。

2000年代: P2P における「ポエム」

Winny や WinMX のようなファイル交換ソフトで、合法に交換できるファイルの例として、あるいはただのファイルのいいかえの隠語として「ポエム」という言葉が使われることがあった。

Winny裁判を考える なぜ「幇助」が認められたか (2/3) (2006)

Winnyは、他人の著作物をアップロードすることにも使えるけれども、自作のポエムを配布するのにも使えるから、Winnyを公衆に提供する行為は「中立的行為」ということになるのですね。

時期は、WinMX の最初のバージョンがでたのが2000年か2001年、Winny のベータ版が公開されたのが2002年5月、開発者が逮捕されたのが2004年なので、だいたい2000年代とした。

2006年: 「寝言ポエム」が現代用語の基礎知識に掲載される

『現代用語の基礎知識2006』掲載キーワード発表

はてなダイアリーのキーワードから「オタ芸」「モヒカン族」などとともに「寝言ポエム」が、現代用語の基礎知識に掲載される。

カフェやモスバーガーの店先によくあるような、店員によって黒板に書かれた、自意識過剰で上滑りした見るも痛々しいひとことポエム。

うっかり読むと体感湿度が上昇する。

ブログやSNS上では、さらに頻繁に見受けられる。

こういった、詩的だけどなにかの基準に満たないものを「ポエム」と呼称する用例には、不動産のキャッチコピーに対する「マンションポエム」(2013) という呼称もある。

2013年末: 小田嶋隆『ポエムに万歳!』

ポエムに万歳! は小田嶋隆の過去のコラムを書籍化したものだ。タイトルの「万歳」は皮肉としての意味が強く、著者は「ポエム」という言葉をかなり辛く定義している。書籍発売後の東洋経済オンラインの 日本「ポエム化」現象のナゾ (2014) から引用する。

私がおおざっぱに分けているのは、鑑賞される作品として作られて、作品として読まれているものは、出来不出来はともかく、詩です。一方、本当は詩ではないものを書くはずだったのに、舌ったらずで、文章の技巧がなくて、結果的に生まれてしまったものは、ポエムだと思います。

私が問題視しているのは、政治家や役人の言葉、官公庁のプレスリリースなど、説明すべき責任のある文章がポエム化していることなのです。本来、情報を運ばなければいけないのに、気分を運んでいる。つまりポエムですよ。

ここでは、詩にかぎらないあらゆる文章について「足りない」「情報を運ばなければいけないのに、気分を運んでいる」状態を「ポエム」と呼称している。

2014年: pplog リリース

pplog は「ポエムを刻もう」をうたうウェブサービスで、ベータ版が2013年に、正式版が2014年に公開されている。

俺たちのゆるふわインターネット「pplog」 をリリースしました(してました)

サービスについての説明のかわりに、自分が最初にGitHubのIssueに書いた、恥ずかしいコンセプトポエムを晒します。けど、こんな意図の説明しなくたって、使ってくれてるユーザーさんたち(ポエマーと呼んでる)は、意図を完全に理解して使ってくれてて、すごいなーと思って見てる。

コンセプトポエムの中では「ポエム」という語そのものは明確に定義されない。一方で、小田嶋隆の定義するような「足りないもの」「情報を運ばなければいけないのに、気分を運んでいる」状態としての「ポエム」の認識と、それに対する肯定はみてとれる。

pplog では

  • 「ポエムを書くための場所ですよ」という場の設定
  • ある著者の投稿は最新一件しか読めない (パーマリンクを隠す) というアーキテクチャの制限

で、書き手の望まないコミュニケーションを回避しつつ「ポエム」的な文章を書ける場を提供している。

2014年: ポエム駆動開発

pplog の開発チームは、さらに、このコンセプトポエムから進む開発のかたちを「ポエム駆動開発」と呼称している。

ポエム駆動開発によるWEBサービスの作り方 pplog誕生ものがたり

私達はサービスを開発する前にポエムを書くことを大事にしています。それをポエム駆動開発と呼んでいます。 サービスに対する熱い思いがパートナー(もしくはチーム)で共有させれていて、それをいつでも振り返り立ち返る、ソレが一番大事です。

肯定的な意味での「ポエム」の定義は、この「ポエム駆動開発」の文脈で書かれた pixiv の 会社で「ポエム」を綴ろう! ~ポエム駆動で理想を語ると社内の風が変わる!~ がわかりやすい。

ビジネス文章としての整合性や第三者からの検証性を必ずしも重視せず,書き手自身の理想であったり熱意だったり危機感だったり,そういう何らかの感情の発露を自分の中で反芻してとりまとめた表現した文章や図面の事。規模は数行から数十行であることが多い。

現在: 「ポエム」の拡散

ここまでの

  • P2P における「ポエム」
  • 「寝言ポエム」「マンションポエム」のような、詩的だけど何かの基準に満たないものとしての「ポエム」
  • 小田嶋隆の「足りない」「情報を運ばなければいけないのに、気分を運んでいる」ことを指す「ポエム」
  • pplog およびポエム駆動開発における「ポエム」の肯定

という経緯があって、冒頭にもふれた現在の「ポエム」の流行があるのではないか、と私は考えている。

pplog にあった、パーマリンクを隠すようなアーキテクチャの制限が、Qiita や他のメディアに「ポエム」的な文章が拡散するにあたって、消えてしまっているのは面白い。

これは「ポエムです」という但し書きが意味することがコミュニティに浸透した結果とも思えるし、アーキテクチャの制限がなくなったせいで、また、書き手の望まないコミュニケーションが発生する場面が増えてしまっているようにも思う。

付録: Qiita における Perl, Ruby, Python の成長率

Perl

Ruby

Python

Perl と Ruby にくらべて Python が増えているのは、データ分析や機械学習の流行と、その分野での Python のシェアを示しているんじゃないか、と個人的には思う。ここらへん調べるのは面白そうですね。